「恐怖の帝王」、堂々の帰還。
この帯を見て、キングファンは買わないわけにはいかない。
今回は久々に島に取り憑いた悪霊がテーマの王道ホラーである。
そして、圧巻のページ数は、上下で1,000ページ。
物量的にもキングは健在だった。
確かにテーマはむかしに戻ったが、大御所になったキングは、やはりむかしとは違う。
幽霊屋敷に乗り込んで悪霊退治をする後半よりも、少し不思議な現象の起こる日常を描いた前半の方が圧倒的に面白いのだ。
主人公は事故で右手を失い、右足と記憶に障害を負う。
妻にも逃げられ、主治医の勧めで、住民の少ない島で絵を描き始める。
手足を失った人が、幻肢と一緒に、過去や未来を視る力を得る、という発想は面白い。
本書の中で、そういう例がいくつもあると紹介されている。
調べればすぐわかることなので、あながち作り話ではないのだろう。
主人公が描く絵は、未来を予知するようになり、やがては現実を変える力さえ持つようになる。
後半、この力を武器にしていくのだが、それはちょっとやり過ぎでは・・・と思ってしまう。
そこまでいくと、ホラーよりもファンタジーになってしまう。
となりの家に住む元弁護士のワイアマンとの出会いが素晴らしい。
リハビリのために砂浜を歩く距離を日々延ばしていた主人公は、パラソルの下でピッチャーとグラスで寛ぐ男を発見する。
主人公は、男に飲み物を貰うために、日々歩く距離を延ばして行く。
そして辿り着く。
「さあ、すわってくれ、足を引きずる名を知れぬ男よ。のどを潤すといい。グラスはもう何日も、きみを待っていたんだよ」
こうして2人の友情が始まった。
ワイアマンは、色々な意味で粋な男である。
古典文学や映画から引用しての会話も多い。
ワイアマンのような会話を楽しんでみたいものだ。
しかし、後半、お化け退治の段になると、あまり面白くない。
これはいつものことだが、キングの小説における敵は怖くないのだ。
文化的な違いのせいか、キングの恐怖があまりにプライベートなせいかわからないが、今回もやはり怖くない。
怖くないことを割り引いても、十分楽しめる小説である。
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