空白の五マイル

空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む (集英社文庫)現代を生きる探検家の記録である。
彼が追い求めた対象については共感できないが、本人が書いた記録だけに、記述はリアルだ。
キレイ事だけでない冒険の本当の姿が描かれている。

人工衛星で地球全体が隅々までリアルタイムで監視できる現代においては、地上での冒険など存在しないと思っていた。
しかし、かろうじてではあるが、人がまだ足を踏み入れていない地域があった。
チベットのジャングルの奥地の巨大な峡谷に、未踏の数マイルがあった。
そこには、幻の滝があるという。
本書は、単独でその数マイルを目指した日本人の冒険家の記録である。

探検がしたかった。
人跡未踏のジャングルをナタで切り開き、激流を渡り、険しい岩壁を乗り越える、私の理想とする探検とは、イメージで語ればそんな感じだった。21世紀が目前だったにもかかわらず、学生の頃の私は、19世紀の英国人がやっていたような古典的な地理的探検の世界に憧れていたのだ。

未踏のジャングルの奥にあるという滝を見たい、という著者の目的には共感できない。
たかが滝だろ?と思ってしまう。
グランドキャニオンを超える大きさの峡谷だから、滝のスケールも違うかと思ったが、本書を読む限り、その巨大さは伝わって来なかった。
それよりも、冒険におけるリアルな問題、目標達成の瞬間よりもずーっと長いその行程がちゃんと描かれているところが良い。

その時、私は自分の体に不気味な異変が生じていることに気がついた。
手の指先から足のつま先に至るまで、全身が赤いぶつぶつで覆われていたのだ。
手のひらで触れてみると、肌がまるで爬虫類のうろこのようにぼこぼこしていた。
数え切れないほどのダニが私の体に群がっていたらしい。

それでも冒険家は、危険を犯しても、不快な生活を余儀なくされても、冒険を目指すのだ。

それでも多くの人はこう問うだろう。
なぜ命をかけて、そこまでする必要があるのか、と。
極論をいえば、死ぬような思いをしなかった冒険は面白くないし、死ぬかもしれないと思わない冒険に意味はない。
過剰なリスクを抱え込んだ瞬間を忘れられず、冒険者はたびたび厳しい自然に向かう。

冒険がしたくなって来た。

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