日本を舞台にしたファンタジー「勾玉」シリーズで有名な、荻原規子の作品である。
「空色勾玉」の頃と違い、日本版ファンタジーは珍しくなくなったが、独特の語り口は楽しませてくれる。
平安末期、源氏方の若武者・草十郎は、落ち武者狩りにあうが、山賊の頭に救われる。
源氏が平氏に破れ、山賊の中で生活していて草十郎は、京都の河原で舞を踊る少女・糸世と出会う。
糸世の踊りと草十郎の笛は共鳴し、不思議な力が生じる。
上皇の寿命を延ばすために舞い、演奏した草十郎と糸世だが、上皇の延命と引き換えにするように糸世が神隠しに会ってしまう。
草十郎は、カラスの鳥彦王と伴に、糸世を探すあてのない旅に出る。
冒頭、源平の闘いから入るので、歴史的人物を思い出すのに頭を悩ませたため、なかなか物語に入り込めなかった。
舞台設定に慣れてしまえば、いつも通り、荻原規子のボーイ・ミーツ・ガール・ファンタジーである。
ラノベ等で日本を舞台にしたファンタジーも珍しくなくなってしまったが、やはりジュブナイル系とも言える荻原規子の作品は一味ちがう。
まず、相棒であるカラス・鳥彦王との関係が楽しい。
人間の世界に修行に来たカラスの王子は、なかなか便利で、頼りになる相棒である。
あまりしゃべらない主人公・草十郎も、このカラスが相手だとついつい笑える会話になってしまう。
音楽の描写も良い。
草十郎の笛と糸世の舞による神秘的な雰囲気は、引き込まれるものがある。
このような描写は、映像では実現出来ない、小説ならではの強みだと思う。
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