伊藤計劃映像化プロジェクト第1弾は「屍者の帝国」だった。
星雲賞受賞の本作は、伊藤計劃が最初の部分のみ書いた後に亡くなったため、友人の円城塔が書き上げたスチームパンクである。
キャラクターデザイン発表時には期待出来ないと思ったが、実際に見てみると現代日本の底力を感じさせるアニメに仕上がっていた。
産業革命の代わりに死者を蘇らせる技術を得た19世紀のロンドン、医学生のワトソンは、友人のフライデーを生き返らせるため違法な死体再生を試みた。
政府の諜報機関のMは、ワトソンを見逃す交換条件として、「ヴィクターの手記」の入手を約束させた。
「ヴィクターの手記」とは、フランケンシュタイン博士が死者に意志を持たせる方法を記した文書だった。
ワトソンは、フライデーの魂を取り戻すために、「ヴィクターの手記」があるというアフガニスタンに向かう。
原作は科学、文学、オカルトに関する蘊蓄が8割を占めていたような感じで、ほとんどストーリーを覚えていない。
この映画のような情感豊かなアクション物ではなかった気がする。
この映画の困ったところは、それぞれの登場人物が何を目指しているのかよく分からないところだ。
ワトソンがフライデーの魂を取り戻したいのは分かるののだが、Mやカラマーゾフ、そして最初の屍ザ・ワンが「ヴィクターの手記」で何をしたいのか、よく分からない。
そして、「ヴィクターの手記」に何が出来るのか、途中で曖昧になってしまった感がある。
DVDが出たら、もう一度じっくり見てみたいものだ。
だからといって、つまらないわけではない。
そのクオリティの高さには圧倒される。
19世紀のロンドン、インド、アフガニスタンそして日本の風景が、実写よりも迫力をもって迫ってくる。
ロードムービーとしても、とても情感豊かだ。
4人の旅の行程が、リアルに、物静かに描かれている。
夜の暗さや静けさが、本物よりも心に響く。
是非とも映画館で観て欲しい作品だ。
次の「虐殺器官」アニメ版にも期待したい。