ギレルモ・デル・トロ 創作ノート 驚異の部屋[普及版]

ギレルモ・デル・トロと言えば、「シェイプ・オブ・ウォーター」でアカデミー賞を受賞して有名になったが、元々はB級ホラー・SF系の人間である。
私も彼の作品では「デビルズ・バックボーン」の方が好きだ。
この本は、彼が映画製作にあたりデビュー前から書き続けてきた制作ノートの解説本である。
なんともマニアックで、ファン以外は絶対に買わないたぐいの本だろう。

彼の創作ノートの面白いところは、ノートの中心に絵があって、それを取り巻くように文字でアイディアが記述されている。
ダ・ビンチのアイディア・ノートのようだ。
デル・トロ自身も、途中からは子どもたちに残す遺産として意識しているようだ。
マッドサイエンティストの実験ノートのようで、見ていて楽しい。

ただ、ノートそのものはアイディアの走り書きなので、それ自体を見ていても、途中で飽きてしまう。
なかに描かれているイラストは、私の趣味からするとマンガ的過ぎる。
創作ノートを元に、デル・トロがインタビューに答えており、そちらの方が興味深い。
彼のSF・ホラーに対する愛が感じられるだけでなく、美術史に対する造詣の深さも伺える。

彼の仕事場であり、個人的な博物館でもある「荒涼館」にも圧倒される。
まさにコレクターの夢のような建物である。
ラブクラフトの等身大像を持っている人など、なかなかいない。

むしろ、ファンタジーの形を借りて恐怖をまとわせながら、我々が生きる世界に解釈を与え、敢えて観客に”現実とは何か”を突きつける。しかもギレルモは、それを独自のブランドとして巧みに創り上げている。
「僕はね『ファンタジーは素晴らしい逃げ道だね』という人々に対して、『そう思わない』と言うよ。ファンタジーが現実を読み解く優れた方法だからね」。
これがギレルモの持論である。

僕は物の写真を撮るのが好きじゃないから、絵に描いておいたんだ。(中略)
「単純に写真を撮るってことができないんだよ。フレームに何を入れるか考え出すと、色はどうするかって言わざる得なくなる」

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