世界史の極意

世界史の極意 (NHK出版新書 451)「新・戦争論」で佐藤優に興味を持ったので、彼の歴史観を知るために、更に本を読んでみることにした。
彼の提唱する「新・帝国主義」は、なかなか面白く、説得力がある。
残念ながら、その思想の背景となる歴史的事実を、人に説明出来るほど憶えることが出来なかった。

現状を読み解くために、歴史を知ることの重要さを本書では主張している。
歴史を知ることで、「この状況は過去に経験したあの状況とそっくりだ」と対象を冷静に分析できる。
このような歴史をアナロジカルに読み解く力が重要である。

本書では、世界史を多極化、民族問題、宗教紛争という軸で分析している。

現代は「新・帝国主義」の時代である。
自由主義の背景には常に覇権国家の存在があり、覇権国家が弱体化すると帝国主義の時代が訪れる。
覇権国家たるアメリカが弱体化して現代は、この状態である。
「新・帝国主義」は帝国主義と異なり、植民地を持たず、全面核戦争を行わない。
植民地を持たないのは、植民地の維持にコストがかかり過ぎるのを学習した結果である。
「新・帝国主義」では自国の利権を強引に主張し、地域紛争も辞さない。
しかし、国際世論の反発で、利権よりもコストが大きくなれば撤退する。

ナショナリズムは、実は作られたものである。
民族意識は政治的に作られた後に、民族の同一性についての証拠が発見される。
ナショナリズムは、近現代人の宗教と言える。
ウクライナやアイルランドのような、同質性が高いほどナショナリズムは爆発し易い。

宗教はプレモンダン(前近代的)思考である。
それ故に、単純で広がり易い。
スターリンは、イスラム原理主義を抑えこむためにナショナリズムを使ってイスラムの国々の分裂を図った。

つまり、国家という暴力が資本の暴力を抑えこみ、結果として労働者の利益になるようなことをするのですが、それは善意からではありません。資本主義システムを維持するほうが国家にとって得になるからこそそうするのです。

大きなポイントは、自由主義の背後にはつねに覇権国家の存在があり、覇権国家が弱体化すると、帝国主義の時代が訪れるということです。
イギリスが覇権国家だった時代は、自由貿易の時代でした。しかし、イギリスが弱くなると、ドイツやアメリカが台頭し、群雄割拠の帝国主義の時代が訪れる。
その後、2回の世界大戦とソ連崩壊を経て、アメリカが圧倒的な覇権国家として君臨するようになります。しかし、同時多発テロやリーマン・ショックを経て、アメリカの弱体化が明らかになると、ロシアや中国が軍事力を背景に、露骨に国益を主張するようになる。その結果、かっての帝国主義を反復する「新・帝国主義の時代」が訪れているのです。

イスラム原理主義の特徴として次の5点が指摘できるでしょう。
1.イスラム原理主義は儒教のように、哲学的思弁を駆使せず、簡単で、宗教と道徳が一致しているため、近代化の嵐のなかでも生き残ることができた。
2.イスラム原理主義が、儒教よりも強いのは、強力な超越的観念を持つからだ。
3.イスラム原理主義においては、超越的な神とこの世の人間が直結する。信仰の仲介者がいないので、政治的、道徳的言説の内容があいまいで、幅が広くなる。それゆえにイスラム原理主義は広域で影響を発揮することができる。
4.超越的な唯一神を極端に強調すれば、知的整合性を無視することができる。
5.近代的な学問手続きや論理的整合性を無視して、「大きな物語」をつくることができる。
こうしたイスラム原理主義の特徴を熟知して、その暴走を事前に食い止めようとしたのが、レーニンとスターリンです。
(中略)
イスラム系諸民族のなかにあるエトニを刺激して、イスラムへの帰属意識よりも民族意識を強化する。その結果、イスラム原理主義が浸透する土壌がなくなるわけです。

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