火星の人

火星の人 (ハヤカワ文庫SF)火星に一人取り残された宇宙飛行士によるサバイバルである。
たったそれだけの話なのだが、これが読ませる。
次々に降りかかる困難を、知恵と工夫で解決していく。
そして、何よりも主人公が前向きでユーモラスなのが良い。
思わず応援したくなる。
久々の傑作SFだ。

火星脱出時の事故で、死亡したと勘違いされた宇宙飛行士のワトニーは、火星にたった一人取り残されてしまう。
次の探検隊が火星を訪れるのは数年後であり、それまでに何とか生き延びなくてはならない。
ワトニーは植物学者であり、エンジニアである。
食糧が足りないことが分かれば、火星基地内全体をジャガイモ畑にして、自給自足を試みる。
水が足りなければ、水を作れるように装置を改造し、必要なものはなんでも作ろうと頑張る。
まさに、鉄腕ダッシュ火星版。

そんな彼を、次々に困難が降りかかる。
しかし、どれも普通にありそうな問題ばかりで、火星人の襲撃や地球側の陰謀や、まして進化したゴキブリではない。
火星の環境や装置の劣化、彼自身の不注意に起因するリアルな問題である。
だから、説得力があり、ワトリーの頑張りを応援したくなる。

そして、何よりもワトリーのポジティブな姿勢と馬鹿なユーモアが素晴らしい。
一瞬落ち込むこともあるが、次の瞬間には、どこかに面白要素を発見する。
この本を読みながら、何度大笑いしたことか。
エンターテイメントにおけるユーモアの重要さを再認識させてくれる小説である。

これがデビュー作とは驚きだが、この生きの良さは、デビュー作だからかもしれない。
次回作が楽しみだ。

たいした進歩だ。まだ餓死の危機からは脱していないが、生存の範囲内に入ってきた。餓死寸前だが死なない状態で、なんとか生きのびられるかもしれない。肉体労働を最小限に抑えれば、カロリー消費を減らせるだろう。ハブ内の温度を通常より高めに設定すれば、体温を保つためのエネルギー消費量をへらせる。片腕を切り落として食べれば、貴重なカロリーが獲得できて、必要なカロリーの総量をへらせる。
いや、それはちょっとちがうか。

ぼくの計算では、<パスファインダー>まであと100キロだ。厳密にいえば”カール・セーガン記念基地”だが、カールに大いに敬意を表するものの、名称はすきなように呼ばせてもらう。ぼくは火星の王である。
きのうも書いたとおり、長くて退屈な旅だ。しかもまだ往路の途中。しかし、なんたってぼくは宇宙飛行士だ。クソ長い旅のプロである。

[12:04]JPL:(中略)追伸:発言に気をつけて欲しい。きみが打ち込んだ内容は全世界に生中継される。
[12:15]ワトニー:見て見て! おっぱい! -> ( . Y . )

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