宇宙船とカヌー

宇宙船とカヌー (ヤマケイ文庫)宇宙船を夢見る父と北の海でカヌーと生きる息子。
2人のダイソンの伝記である。
父親のフリーマン・ダイソンは、古いSFファンには有名な科学者である。
太陽を包み込むような殻を作り、その内側で生活するという遠大な構想を唱えた想像力の持ち主だった。

フリーマン・ダイソンが「ダイソン環」の提唱者だとは知っていたが、核爆弾を宇宙船の推進力にする計画の中心人物だとは知らなかった。
むかし読んだブルーバックスの宇宙船解説書では「核融合パスル推進システム」として紹介されていた、最も効率の良い推進方式である。
宇宙船の後ろで連続的に小型核爆発を起こし、そのエネルギーで宇宙船を推進する方法だ。
結果的にはアポロ計画に負けたが、この方法で地上から宇宙船を飛ばそうとしていたのだから恐ろしい。

本書は、宇宙船研究にかける父親の活動と、カヌーを作り自然の中で生きる息子の生活が交互に語られる。
息子はアラスカでカヌーを作り生活している。
カヌー作りに関する古代からの技術の再現と改良を行い、戦闘機のような風防を持つ巨大なカヌーを作り上げる。
カヌーを作りながら、クジラやシャチ、狼や熊、開拓者たちと世捨て人のような生活をしている。
この伝記の著者は、息子と伴に生活することが多く、考え方もどちらかというと息子よりであり中立とは言えない。
宇宙にフロンティアを求める父親に対し、地上のフロンティアを優先すべきだとしている。

1970年代に出版された本書は、科学と自然の対立を親子の対立を使って書かれているように思える。
単純な対立構造に終わってはいないが、科学的合理主義に失望した時代を反映した書き方である。
現代の私から見ると、舞台が宇宙か未開の海かというだけで、どちらも冒険者の物語に思える。

その根拠は? フリーマンはこう考えた。技術文明はとても急速に拡大していくものだ。どこの惑星に生まれた文明であれ、三千年間も高度な科学技術を発達させていけば、そこの太陽エネルギーをもれなく利用するために、大惑星のひとつを解体し、太陽をすっかり覆い包むような殻をつくるに至ったとしても不思議ではない。もしそうだとすれば、目で見える近ばの星を探査しても時間の無駄である。恒星を内包していれば、遠赤外線を放射しているはずだ。したがって我々が捜さなければならないのは、遠赤外線を放射する、地球軌道くらいの大きさと室温程度の温度をもった暗い天体ということになる。

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