ロックイン

ロックイン-統合捜査- (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)世界中に突如広がった病気の影響で、自分の身体を動かすことが出来ず、外界から孤立する「ロックイン」状態に陥る人々が続出した。
この病気はヘイデン症候群と命名され、彼らはヘイデンと呼ばれるようになった。
ヘイデンは、専用のネット空間である「アゴラ」でバーチャルな生活を送るか、遠隔操作ロボット「スリープ」を操り現実世界で生活することになった。
ごく少数の人間は、病気から回復した後に脳の構造が変化し、他のヘイデンの意識を受け入れられる体質に変化した。
彼らは「統合者」と呼ばれ、ヘイデンが現実の世界を体験するための貴重な存在となった。

その世界で、統合者による殺人事件が発生する。
捜査の担当になったのは、元統合者の女性とヘイデンのFBI捜査官コンビだった。
この小説は、近未来のリアルなSFであると同時に、ノリの良い刑事ドラマでもある。

全編に流れるユーモラスな雰囲気が良い。
特にヘイデンのFBI捜査官クリス・シェインのキャラクターが秀逸である。
世界で一番有名な子どもと呼ばれていた彼は、ヘイデンの人権向上運動を進める父親によって旗印として使われてきた。
その彼が、初めての就職先として選んだのが、FBIの捜査官だった。
捜査の過程でヘイデンに対する差別に直面するが、巧みなユーモアで軽く流していく。
金持ちの息子なので、困ったことがあると金で解決するのもご愛嬌である。
彼の相棒である粗暴な女性捜査官とのコンビは、読んでいてとても楽しい。
是非シリーズ化して欲しいものだ。

ヘイデン症候群という架空の病気を背景としているが、身体障害者へのテクノロジーによる支援と置き換えると、リアルな未来予想として読めるSFである。
そのような状況で起こるであろう差別がリアルに、そして陰湿ではない表現で描かれている。
この作者の他の作品も読みたくなった。

10時5分に、フェニックスのFBI支局で目覚めると、目の前に頭のはげた男がいた。
「ベレズフォード捜査官ですか?」ぼくはたずねた。
「うわ、君が悪いな」男が言った。「このスループは3年間も部屋の隅でじっとしていたのに、急に動き出すんだからな。彫像に命が宿ったみたいだ」
「びっくりですね」
「実は、帽子掛けに使っていたんだよ」
「みなさんのオフィス家具を奪うことになってすみません」

「両脚を動かせないスリープでは、ぼくが今日やらなければいけない仕事の妨げになるんですが」
イバネスはわきに寄り、自分の後ろにあった車椅子を身ぶりでしめした。
「車椅子ですか」
「そう」
「スリープが車椅子に」
「そう」
「どれだけ皮肉なことかわかってますよね?」
「このオフィスはアメリカ障害者法に準拠しているの。あなたは郵便局へ行くそうだけど、そこも法律で障害者法に準拠するように定められている。これで充分いけるはず」
「本気で言っているんですね」

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