風が強く吹いている

風が強く吹いている (新潮文庫)私はマラソンランナーであるが、駅伝には興味がない。
やはり、ひとりで走るのが気楽で良いと思っている。
10人でタスキを繋ぐ駅伝は、チームスポーツである。
それ故にスポ根の絶好の素材でもある。
この小説は、ぼろアパートに住んでいた個性豊かな10人が箱根駅伝を目指すスポ根小説である。

格安のぼろアパートに住んでいたら、実はそこは元々は大学の陸上部の建物で、いつの間にか箱根駅伝を目指すことになっていた、という感じである。
主人公の走は走るために生まれた男だし、みんなを引っ張るハイジも怪我をする前は将来を期待された選手だったから良いとして、他のメンバーの中には全く長距離を走ったことがない人間も多い。
そのメンバーで、箱根駅伝を目指すのは流石に無理だとは思う。
でも、スポ根小説としては面白い。
陸上部ではないので、メンバーの趣味・志向にバラエティがある。
それに、走ることに目覚めた初心者のワクワク感も伝わってくる。

マラソンの楽しさを文字で表現するのはとても難しいと思う。
まさに、走ってみれば分かる、という世界である。
そこに挑んだ著者は偉いと思う。
走者の感覚を理解するために、著者は自転車で走って風を感じたりしたらしい。

主人公の走が走りのゾーンに入るシーンも良いが、法律家を目指すユキのレースに対する静かな対峙の仕方が好きだ。

それにしても、彼らの練習メニューを見て、駅伝の目指す速さにはびっくりした。

「具体的には、1キロあたり最初は3分05秒だったものを、最後の1キロで2分50秒ぐらいまで上げていくと、走には効果的じゃないかと思う」

箱根駅伝の復路のスタートは、午後8時だ。これから3時間かけて、ユキはゆっくりとウォームアップする。テンションをますます上げていくために。2時間は緊張をほぐしながらまったりし、残りの1時間で集中力をアップするのが、ユキのやりかただった。ユキのやりかただった。司法試験に臨んでいたころから、このペースで集中の密度を上げることを、ユキは好んだ。

駅伝は一人でも欠けていたら成り立たない。求められていることを実感できるし、遠慮もプライドもかなぐり捨てて、支えあうことができる。だけど走るあいだは一人だから、他人の思惑や人間関係のしがらみから解き放たれて、自分の心と向き合えもする。

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