この世の春

宮部みゆきの時代劇、それも怪奇小説なら読まないわけにはいかない。
宮部みゆきの時代劇ホラーの特徴は、時代こそ江戸時代などだが、構造的にはモダンホラーだということだ。
読んでいて、まず思い出すのはスティーヴン・キングだ。
日本的な怪談というよりも、人間の恐怖をベースにした現代的なホラー小説となっている。
本作も懐かしのジョン・ソールを想い出させる嫌らしいティストになっている。

狂気に陥ったということで座敷牢に押し込められた若き領主と、その面倒をみる人々の物語である。
ネタバレしてしまえば、この領主は多重人格なため、周りから見ると異常な行動を取ることがあったのだ。
領主を救おうとする周りの人々の努力もあって、彼が多重人格になってしまった理由が判明する。
怨霊が乗り移っていたのではなく、父である元領主に虐待されていたため、その事実から逃れるために、人格を分裂させていたのだ。
時代劇としては斬新だが、80年代のホラーではよく見られた設定である。

宮部みゆきなので、人物造形や風景描写は素晴らしいのだが、ネタとしてはのれなかった。
同じく江戸時代を舞台にしたホラーである「百物語」シリーズの次回作に期待する。

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