日本史サイエンス

日本史の謎をエンジニアの視点で解明する。
物量から可能性を考えるのが面白い。
歴史学者とは見るところが違う。
作者は造船エンジニアなので、一般には知られていない船に関する知識も楽しい。

まずは「蒙古軍はなぜ一夜で撤退したか」。
軍艦建造に必要な木材と森林面積から分析に入る。
そして、必要な大工と人夫の数も考えると、史料にある数の船の用意は不可能だと考える。
蒙古軍が船酔いで体力が低下していたはずだ、という考察ではISOの乗り心地基準を引き合いに出す。
全軍が一度に上陸することができず、小刻みに増員していたはずで、結局上陸作戦は失敗だったと結論づける。
神風は関係ない。

次は「秀吉の大返しはなぜ成功したのか」。
信長が討たれたという報を受けて、8日間で200kmを2万人が移動した。
兵士が必要とするエネルギー量から、そのための物資を計算し、それを輸送する馬の数も割り出す。
更に、馬の餌と、その餌を運ぶ馬の数も考慮する。
陸路による移動は体力的に不可能と思われるので、海路を考えるが、2万人を運ぶ船はない。
結論としては、装備と秀吉や騎兵などの一部は船で運び、身軽になった兵たちは陸路で移動したのだろう、と推測している。

最後は「戦艦大和は無用の長物だったのか」である。
戦略的なミスにより、大和を守る護衛の艦船や戦闘機がなかったのが、大和が本領を発揮できなかった原因だとしている。
技術的な凄さは分かるが、航空機の時代に入っていたので、やはり巨大戦艦は出番がなかった気がする。

長時間の乗船については、ISO(国際標準化機構)が定めた乗り心地基準というものがあります。これによれば、8時間乗船では揺れ周期3〜10秒の場合は、上下加速度は0.025g以下が推奨値となっています。自分の体重の2.5%以上の上下の力が加わると船酔いするということです。また、長期間乗船するクルーズ船の基準は、上下加速度0.02g以下で、横揺れの角度は2度以下となっています。

もうひとつ、大軍の長距離移動において、意外と大きな問題となるのは糞尿です。人間1人の糞尿は1日当たりで大便が約200g、尿の量は約1.5Lですから、合わせて約1.7kgの重さになります。2万人の兵士では1日で約34tにもなります。馬も1日に糞を約14kg、尿を約3Lも排泄しますので、7000頭の糞尿は合わせて1日で約120tという膨大な量になります。

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