ホラー小説大全

わたしの知らないホラー小説の歴史や未訳の小説、評論の紹介が多数あり、図書館で借りたが手元に置きたくなった。
Amazonで調べたら古本しかなく、定価の8倍はする!
さすがに、これは手を出せない。
でも、いい本だと思う。

この本は、以下のような変わった構成になっている。

第1部 西洋ホラー小説小史
第2部 近代が生んだ三大モンスター
第3部 スティーブン・キングの影の下に
第4部 サイコとエロ・グロ・スプラッタ
第5部 究極のモダンホラー・ベスト100

ホラー小説の歴史解説、モンスターに特化した分析、モダンホラーの作家紹介、ブックガイドというハイブリッドで、お得な内容でもある。

まず、西洋ホラー小説の歴史である。
これが一番興味深かった。
「オトラントの城」以降、ブームとなったゴシック・ロマンスは、1780年代までに2つのタイプに別れた。
感傷小説タイプの超自然的な要素を極力抑えた幽霊譚とシュールで背徳的な精神の横溢するサド・マゾの幻想譚である。
これが「テラー派」と「ホラー派」へと繋がっていく。
ゴシック・ロマンスは、次の5つの要素を持つ。
・閉じられた空間・監禁状態の恐怖
・迫害された乙女・性的な危機
・超自然的現象の現実への侵犯
・合理的な判断と既成の道徳観の宙吊り
ア・イデンティティの探求と危機

19世紀半ばに流行した心霊主義は、霊や死後の世界を信仰するが宗教ではない。
霊の存在を合理的に探求する科学でもあった。
宗教と科学の対立を解消するものとして、一般大衆だけでなく科学者や知識人にも支持されていた。

18世紀にはゴシック・ロマンス、19世紀にはゴースト・ストーリー、20世紀にはモダンホラーのブームがあったが、それらを単純に半合理主義と捉えると、各時代特有の文化的要因を見逃すことになる。

80年代半ば過ぎに、アメリカで「スプラッタパンク」が台頭していたのは知らなかった。
キングらのベストセラー作家に若手の作家が反旗を翻し、ホラー小説の可能性を追求した運動だった。
しかし、その手法は、エロ・グロで人々の倫理観を逆なでするものだったので、一般には受け入れられなかったようだ。
代表と言われる作品をいくつか読んだことはあるが、確かにベストセラーにはなりにくい内容だった。
若者の馬鹿騒ぎであるスプラッタパンクに反発し、大人の上品で文芸志向のホラーがダーク・ファンタジーだそうだ。

「究極のモダンホラー・ベスト100」は、ほとんど読んでいるが、紹介文を読んで「読みたい!」と思った本の多くが、実は自分の本棚にあって驚いた。
1980年代にモダンホラーが数多く翻訳され、手に入る限り購入していたのでが、40年以上前なので、さすがに覚えていなかった。

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